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BODEの服は歴史を感じる。

BODE

BODEの服は歴史を感じる。
BODEの服は歴史を感じる。

デザイナーであるEmily Adams Bode(エミリー・アダムス・ボーディ)はパーソンズ美術大学でメンズファッションデザインと哲学を専攻した。 幼いころから自分のファッションブランドを持つことを夢見て、ヴィンテージ生地や 装飾品を収集していたという。彼女はそういった収集品を眺めながら、その時代の人々の暮らしを想像していたのだろう。

BODEの服の重要な特徴の一つは生地である。主に19世紀とその周辺の時代のヴィンテージ生地を使う。古く貴重な生地を、再現するのではなくそのまま使うのだ。具体的には、100年以上前のベッドリネンの生地や、1930年代のキルト生地、インドの木彫りの版を使う伝統的な印刷技術を用いた生地や、1940年代のお土産用のテーブルクロスの生地などが使われている。これらの生地を、19世紀の人々も実際に使っていたのかと思うと非常に感慨深い。

19世期は激動の時代である。特に産業革命はものづくりに大きな影響を与えた。蒸気機関を動力源とする工場の出現により、生産効率が飛躍的に伸び、大量生産を可能にした。人々は大量の物を手に入れ、豊かになった。
しかし、急激な成長には思わぬ副作用があった。

工場を経営する資本家が圧倒的な力を持ち、それまで重宝されていた職人や技術者が、単なる労働者に格下げされ、はっきりとした階級社会が現れた。大量生産された物は、職人が作る意匠を凝らした物には及ばない。産業革命は人々から労働の歓びを、物からは培われてきた歴史を奪いつつあった。手工業から機械生産の過渡期にあたる。彼女はその時代の人々が守ろうとした、手工業的なものづくりの歴史に敬意を払い、これらの生地を選んでいるのだろう。

もちろんBODEの服は古い時代のものづくりを尊敬した服である。しかし、彼女は単なる懐古主義者ではない。BODEの服は新しい時代を感じる服でもある。古い時代の生地を使っていながら、全く古臭く感じないのである。むしろ現代的だ。そこに彼女のもう一つの視点を感じる。

BODEは最近ニューヨークのローワーイーストサイドに店を出した。

私はその店の内装を見てウィリアム・モリスのレッドハウスやケルムスコットハウスを連想した。赤茶やフォレストグリーンの壁、植物の絵などそっくりである。

しかし実際に見比べると全然違う。BODEの店はどこか現代的である。赤茶色の壁も少し色が違って、聞くところによると、インスタントコーヒーの粉を水で薄めて、それを塗って色をつけているらしい。

店内で重厚な雰囲気を演出するのに一役買っているクラシックな酒瓶も、よく見ると、その酒瓶のラベルは、その酒瓶のラベルを模した手書の絵であることに気付く。

私はこの空間を、古い時代と現代が混合した、全く新しい空間に感じた。言わばネオヴィクトリアン様式である。

BODEの服にも同様の感覚を覚える。BODEの服は古い時代の生地を用いるのだが、必ず手を加えて用いるのである。つまり、ヴィンテージ生地を一度裁断しパッチワークにしたり、手作業の刺繍を施したり、直接その上に絵を書いたり。必ず現代の人の手が加えられている。まさしく、こ こにも古い時代と、現代の混合を感じる。

BODEの服は歴史を再構築する。

我々は「歴史」と聞くと、古い時代の出来事や、古い時代の人々の暮らしについて語られるものだと思い込んでいる。そこに現代の人々の暮らしは含まれない。しかし、彼女は現代の人々の暮らしも同等に「歴史」として捉え、後世に残そうとしているのではないかと私は思う。

BODEの次の秋冬コレクションのテーマは「The Education of Benjamin Bloomstein」である。つまり、直訳するとベンジャミンブルームシュタインの教育である。このベンジャミンブルームシュタインとは人名である。この人物は重要な歴史上の人 物などではなく、単なる彼女の友人である。ベンジャミンブルームシュタインは小学校から高校まで何度か転校を重ね、後に彼は高校を中退して樹木管理士の下で修行を積み、現在は樹木の家具やオブジェを作るデザインスタジオを主宰している。彼女は彼の半生をコレクションのテーマにしてしまう。

彼女はものづくりという観点から、古い時代の歴史と現代の歴史を等価に捉え、それらを絶妙なバランスで再構築し世に発表している。

19世紀と現代は似ているのかもしれない。
産業革命の代わりに情報技術の革命が起こり、溢れかえる情報の中で人々は歴史への関心を失いつつある。そんな時代だからこそ、私はBODEの服に魅力を感じる。

今日私はBODEの服を着ている。
できることなら、10年後も20年後も着ていたいと思う。
もし、100年後に誰かがこの服を手にすることがあれば、我々の暮らしを想像し、更にその先に19世紀の人々の暮らしを想像し得るかもしれない。
BODEの服はそんな可能性を秘めた服である。

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