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ATON

DIRECTOR INTERVIEW

  1. ATONの由来。ブランドネームに込められた意味とは?

    ATONっていうのは「A」TO「N」なんですよ。要するに「A」から「N」。日本語で言ったら「あ」から「ん」。阿吽(あうん)の呼吸じゃないですけど、最初から最後までという意味です。

    英語でも「N」をちょっとひっくり返せば「A」TO「Z」になるでしょう。なので、ものづくりをするところからお客様の手に渡るところまで、最初から最後までをきちんと大切に行うっていう意味があります。

    僕の中では、ものづくりの段階だけをとってもA to Zがいたる所にあります。一般的な服作りでは、生地屋さんから生地を買って作るのが普通だと思うんですけど、僕たちは、どこの原料を、どこで織って、どこで編んでとか、工場の工程などもちゃんと理解したうえで、自分たちでチューニングするようにしています。

    ものづくりの中のA to Zでもあれば、お客様に届けるところまでというA to Zでもある。そういう意味でATONという名前にしました。

  2. 服作りを始めたきっかけは?

    服を作り始めたのは、中学生とか高校生ぐらいですね。古着を買ってきて、先輩とか後輩とか同級生を集めて、自分の家で売っていたんですよ。

    その時、自分の中では「和」がダサいなぁと思っていたから、和室の部屋の土壁を白に塗って洋風にしたり押入れをラックみたいにしたり無理やり洋風に改造して、アメリカやヨーロッパの古着を買ってきて売っていました。

    素人考えもいいところなんですが、その当時から「形は良いのに素材が違うなあ」と、服を見て感じることが多かったんですよ。だから買ってきた服を解体して、神戸って高架下に生地屋さんが沢山集まっているところがあるんですけど、そこで生地を買ってきて、好きな形にのせかえて、自分が着たい服を作っていました。

    あんまりパターンというのは意識していなかったので、とりあえずバラした服に生地を重ねて、同じようにカットして、そしてまた縫ってを繰り返していました。それが中学3年生とか高校生くらいですね。

    ―そこに来る友達からはちゃんとお金をもらっていたんですよね?

    そうですね。1,000円のものだったら1,500円で売ったり、そんなに儲けたわけではなくて、ちょっとしたお金なんですけど、次の仕入れをする為にみたいな感じですね。

    売れたお金でまた服を買って、また売って、たまに自分の好きな生地を買うみたいな。ずっと回してるだけで、あんまり他のことにはお金を使ってなかったですね。当時の僕はそれが楽しかったんでしょうね。あとは田舎で暇だったんだと思います(笑)。

  3. 素材や生地へのこだわり

    やっぱりシンプルな服が好きなので、それこそ中学生の時の話じゃないですけど、服を見ると「素材を変えたらもっと良くなるのになぁ」ってどうしても思ってしまうんです。その思いがたまたま仕事として実現するチャンスがあって。

    当時、素材を作るというのはディレクタークラスの限られた人しかできない仕事だったんですけど、ありがたいことにやらせていただける機会を頂いて、それから世界中を飛び回る生活が始まりました。

    例えば、ポルトガルだったらジャージ、イタリアでも産地によったらウールだったり、フランスのリヨンだったら、それこそクチュールのシルクの産地でもあるんですけど、僕はナイロンを作り始めた時期に行きました。そして日本の西で言うと岡山だったり、東は群馬ぐらいまで。

    とにかく世界中の各産地を訪ねて、素材や生地を探し回る中で、ある時期を境に「日本の方が自分が思ってるイメージの素材が作れるな」と思うようになったんです。日本の方が優れてるものが多いなと。それから日本で生地を作る比率がどんどん高まっていったという感じです。

    服の生地も料理なんかと一緒だなと思うんですよね。例えば和食の世界、お鮨でもいいんですけど、異常なほど緻密じゃないですか。そこでそんな処理するの?っていうぐらい手が込んでる。和食以外の料理にそれほどの緻密さはないような気がする。

    海外の服や生地は、デザインに重きを置いていたり、プレゼンテーションが上手だったりするんです。そういう部分が和食と洋食の違いによく似ているなと思うんです。

    日本人が作る生地は本当に和食に似ている。すごく緻密に作られているんだけれど、最終的にはシンプルで、なおかつすごく美味しい。シンプルですごく良い服を作りたいなら、日本の方が向いているなと考え始めて、僕の中での海外と日本への価値観が逆転しました。それがだいたい20年前ぐらいの話です。

    ―生地作りを続けて、今までで一番印象的だった生地はどんなものですか?

    ほとんど失敗だらけなんでね。とくに最初の頃はよくあんなことしたなと思うことばかりなんですけど。その時は買ってきた素材を自分で加工したくて、先染めのチェックの生地を買ってきて、自分で漂白剤をブワーっとかけて部分的に漂白したんです。

    例えば、ブラックウォッチに漂白剤をぶっかけると黒の部分が縁とか赤になったりするんです。当時、僕はマルジェラとか存在すら知らなかったですけど、単純に生地が起こす化学反応を知りたくて試していました。

    できた生地は雰囲気はいいんだけど、そのあと洗わずに着ちゃったもんだから、漂白剤が体についてかぶれちゃって酷い目にあいました(笑)。それで、大量の服をどうにかして洗わないといけないということで、金持ちの友達の家のプールを使わせてもらったりして。

    たぶんそれが会社に入って初めて自分が作った失敗作ですね。たくさん失敗があるので、色々思い出はあるんですけど。まあそれが一番の面白エピソードかな(笑)。

  4. 色選び、染色へのこだわり

    ATONの服は基本的にとてもシンプルな服なので、目立つところがほとんどありません。でも、強いて特徴を挙げるとすれば、先ほどお話した素材の事、そしてやっぱり色にはすごくこだわりを持っています。

    色にこだわると言っても、単にビビットな色をやるとかそういう意味ではなくて、ATONの場合はピンク、グレー、ネイビー、グリーンの限られたトピックの中で、毎年少しずつ色のトーンをチューニングして出しています。「去年のピンクと何が違うの?」というぐらい微妙な違いなんですけど。

    そして、色のトーンだけじゃなくて色自体の美しさも大切にしたいと考えているので、天然染料で染めるシリーズも継続してやっています。

    1890年代に化学染料が登場して、それからどんどん普及するんですけど、化学染料は色の粒子が均一で細かいので、良く染まりはするんですが、深さが出ないんです。

    天然染料が面白いのは、その粒子が粗かったり小さかったり不揃いなところ。カメラで言うとフィルムと一緒なんですけど、粒子が不均一だから見る角度や光の当たり方によって微妙に揺らいだように見えるんです。それを僕たちはほとんど無意識に「深さ」や「美しさ」として認識しています。

    もっと言うと、植物の葉の色は、2~3種類ぐらいの色相が混ざり合い、結果的に人間の目に緑色として見えているだけなんです。なので人間が植物を見て「美しい色だ」と感じるのであれば、できるだけ自然に近い構造を用いて自然界の美しい色を表現した方がいいだろうと。そういう考えで、昔から作り続けているのがボタニカルシリーズです。

    ATON

    4年前に一度、それまでのボタニカルシリーズをまとめて一冊の本にしたんです。まとめてみるとこんなに種類があるんです。例えば、琉球藍で染めたブルー、ミモザで染めた焦げ茶。僕がペルーに行った経験をテーマにしたシーズンでは、ペルーの豊かな食材を使って染めました。カカオだったり、トウモロコシなんか白いのから紫まで100種類ぐらいあって、そのトウモロコシで染めた紫。

    ATON

    こんなことをずっと続けているのでかなりの数の色が貯まってきました。いつかどこかの会場で、今までリリースした全種類を並べて、何年に生産されたモデルで、何で染められているのか書かれた札を付けて、その中から好きなものを選んでオーダーできるような企画をやってみたいなと思っています。

    ATONの青山のショップと全国の本当に限られた店舗のみで開催するような、それこそ九州だったらDice&Diceさんでさせていただきたいです。

    ―おもしろそうですね!是非やりましょう。今回の新作のボタニカルシリーズは何で染められているのですか?

    ピンクはゼラニウムです。Aesopの一番クラシックな香りがゼラニウムであるように、昔から香料などにも使われる植物です。

    そしてグリーンはログウッドです。ログウッドも昔から染料として使われている植物で、ナポレオンが着ていたような軍服のコートを、ブラックやダークネイビーに染めていたのもログウッドだそうです。

    ログウッドは南米にしか生えない木で、他の植物では染めることができないブラックやダークネイビーなどを唯一染めることができます。

    ―藍染とかを何度も繰り返し染めればブラックになったりしないんですか?

    ならないんですよ。藍染でもやっぱり限界があって、本当に濃いダークネイビーやダークグリーンやブラックはログウッドでしか染められないんです。

    ―ボタニカルシリーズ使われる植物はどうやって決めるんですか?

    ある時、建築家の方と話していておもしろいなと思ったんですけど、彼らはファッションとは全然違う視点でものづくりを進めていくんです。例えば表参道に家を建てるとします。そうするとまずその土地について深く調べていく。

    その土地にはどんな歴史があるのかとか、もともとどんな植物が生えていたのかとか。その土地のことをしっかり理解した上で、それを踏まえて意味のあることを考えていくんです。そうすると最終的に出来上がった家はその土地にちゃんと馴染むようになるんです。

    ATON

    僕たちもボタニカルダイに関してはそういう姿勢で取り組みたいと思っています。先日のデザインウィークの際は、外苑前でボタニカルダイシリーズのイベントをやったので、外苑前という土地について色々と調べました。

    ネットで簡単に調べられるわけもなく、図書館に通い、様々な文献にあたりました。それでも求めているような情報はなかなか得られなくて、実際に近所の5代目の本屋さんとか老舗の花屋さんとか、昔の外苑前を知る方々に「どんな土地だったんですか?」と聞きに行ったりしました。資料と昔話、色々な情報をまとめることで、だんだんとボタニカルダイに使う植物が絞り込まれていく感じです。

    例えば今青山学院大学が建っている土地は元々北海道開拓使の試験場だったんです。当時は北海道の開拓を目指していた時代で、そのための酪農や薔薇の農園の試験場になっていたみたいなんです。その薔薇畑を見て青山学院の創設者がこの土地に学校を建てることを決めたというエピソードもあって、外苑前は薔薇が一つのキーワードになりました。

    ネットに無いことって実は沢山あるんですよね。僕たちが知りたいこととかは特に。だからアイデアを考える時も、古い本や図鑑を見ながらイメージを出すことが多いです。やっぱりそういうものの中に良いものが眠ってたりしますからね。