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ORRS

  1. 1 太陽のせいにして
  2. 2Panama Hat
  3. 3ORRS 4Dice BLACK DENIM
  4. 4ORRS POTTERY

太陽のせいにして

気に入っていつも被っていた帽子があった。ニューヨークヤンキースのベースボールキャップ。ネイビーボディで、フロントに「NY」と白く刺繍された、定番のいわゆるベースボールキャップだ。

僕は野球には疎い。知っている野球選手といえば、イチローとマツイとノモぐらいだ。なのに「メジャーリーガーが試合で被っている帽子と全く同じ」という触れ込みが、なぜか僕の心に妙に刺さった。

中学生の僕にとっては高い買い物だった。財布の中身は一気に空になったけど、それでも僕は満足だった。着せられるのではなく、自分で決めて、自分のお金をファッションに使った、初めての経験だった。

嬉しくて、鏡の前で何度も被りポーズを決めた。でも、家ではこんなに得意げなのに、友達に見せるのはなんとなく恥ずかしかった。しばらくは家の壁に引っ掛けて、たまに眺めてにやつくばかりだった。

ひときわ日差しの強いある日、僕は思い切って帽子を持って出かけた。「何かあっても、今日なら言い訳ができる」そう自分に言い聞かせて、友達との待ち合わせ場所へと向かった。その日から、僕はどこへ出かける時も、その帽子を被っていくようになった。

「キヨサクさんがいつも被っている『ORRS』のパナマハット。あれ、うちでも扱わせてもらえるかも」そんな話を聞いたのは、一昨年の春のことだった。いかにも興奮気味な口調に、そのパナマハットがどんなに素晴らしい物なのか、聞かずともなんとなく分かった気がした。

沖縄中部の北谷町、砂辺海岸のすぐ近くに「ORRS」はある。人混みを離れ、ゆっくりと時間が流れる海沿いの町。そう聞いて、僕が想像した土地の風景と、実際の風景は全然違っていた。

古い店の年季の入った看板。よく見ると、英語だけで書かれたものがある。公園にはバスケットコートや、スケートランプ。早朝ブレックファーストを出すベーグル屋が繁盛して。夕方、下校する子供達のおしゃべりは、日本人も含めほとんどが英語だ。のんびりした風土と、多様な文化。それが砂辺の日常である。

この場所で、陽介さんは、一室だけのプライベートホテルと、自らデザインしたエクアドルのパナマハットを主に扱う店「ORRS」を始めた。

「パナマハットの事をもっと深く知りたい」その思いから、陽介さんはエクアドルへと向かった。作り手の方々と直に接する中で、パナマハットに対する彼らの愛を知ったという。その愛を伝えるため、陽介さんは日々店に立つ。

品質が高いということ。帽子は作品であるということ。伝統を継なぐということ。仕事に誇りを持っているということ。エクアドルを愛し、家族を愛し、共に働く同僚を愛しているということ。帽子が誰かの手に届くことに喜び、そして感謝しているということ。エクアドルの作り手の方々の愛を、僕も陽介さんから教えてもらった。

そんな、愛の込もったパナマハットが、エクアドルから沖縄を経由して、僕たちのもとへと届けられた。包みを解くと、トキヤ草の爽やかな香りがその場に広がって「エクアドルってこんな香りがするのかな」と僕の想像をかき立てた。

まるで布地のように細やかな編み目は、見惚れるほどに美しい。これが長い月日をかけ、一つ一つ手で編まれたことを思うと、作り手の方々の高い技術と、仕事に対する誇りを感じずにはいられない。

中でも編み目の細かいものは、手に持ってもほとんど重さを感じない。見た目にも軽やかなパナマハットは、身に着ける者を華やかに、そして陽気な気分にしてくれるはずだ。

でも、こんなにも優雅なパナマハットに、僕は釣り合っているのだろうか。壁に引っ掛けたベースボールキャップ。あの時感じた不安が、また顔を出した。

そうだ、僕は窓の外の空を見上げた。運よく今日は日差しが強い。僕は持っていたパナマハットを被って、快晴の青空の下へ出た。

「何かあっても、今日なら言い訳ができる」ちょっと恥ずかしい気持ちを、太陽のせいにして。