織りの国ブータン、伝統の手織物「BHUTAN TEXTILES(ブータンテキスタイルズ)」

織りの国ブータン、伝統の手織物「BHUTAN TEXTILES(ブータンテキスタイルズ)」

2020.11.11 / INTERVIEW

 ブータン王国。通称ブータンは、中国とインドの間、ヒマラヤ山脈の南麓に位置する。人口は80万人弱、ちょうど九州ほどの面積を持つ比較的小さな国だ。皆さんも一度は「世界一幸せな国」として、ブータンという名を耳にしたことがあるのではないだろうか。


Photo by EU-Bhutan Trade Support OUTPUT3-Bhutan High Value Textile Component

 そんな、幸せの国ブータンと、ダイスアンドダイスとの出会いは、意外にもニューヨークから始まった。かねてより、アメリカでのバイイングや、ブランド発掘のお手伝いをして頂いている、ニューヨーク在住のファションジャーナリスト市川暁子さん。暁子さんとダイスアンドダイスバイヤー吉田が「なにやら面白いスーベニアがあるらしい」という話を聞きつけ、ニューヨークはマンハッタンにある、国際連合本部ビルのスーベニアショップへ向かったのは数年前のことだ。
 パスポートで事前に申請しないと入館できないという厳重なセキュリティーを通過し、やっと国連本部の館内へ入った。早速そこで「このグッズは良い、これはちょっといまいちだ」といろいろと意見を交わしながら、いくつか面白いスーベニアを買い付けた。それから数年後、暁子さんから「私あの国連から頼まれて、ブータンという国の伝統工芸を紹介することになったんですよ」と連絡があり、その偶然の巡り合わせに私たちは驚いたのだった。


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 ブータンは長い間、他国との国交をほとんど持っていなかった。1971年に国連に加盟し、徐々に国交を結ぶようになり、少しずつ他国との行き来が始まった。自立を目指し、地道に取り組んではいるものの、まだまだ支援が必要な状況だ。そのため、ブータンの更なる自立を支援する目的で、ブータン独自の伝統文化を世界に伝えるプロジェクトを、国連が立ち上げた。そして、そのプロジェクトを日本に紹介する役目を、暁子さんが担うことになったのである。ダイスアンドダイスは、この素敵な縁によって、ブータンの伝統工芸と巡り合うことができ、今回の取り扱いにつながったのだ。
 
 ブータンは「世界一幸せな国」として有名だ。しかし、他方では「織りの国」とも呼ばれている。ブータンの伝統文化の中でも、民族衣装にルーツを持つ手織物は、古来よりブータンの人々にとって重要な位置付けにある。手織物の技術は、母から娘へと世代を超えて伝えられ、脈々と受け継がれてきた。ブータンの手織物の伝統は、言わば、先祖からの大切な贈りもののような存在である。そして、現在でも日常的に民族衣装を身に付けるブータンの人々にとって、それは単なる伝統というだけではなく、今もなお、生活を送るうえで必要不可欠な技術なのだ。


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 ブータンと国連の共同プロジェクトである、このコレクションは『BHUTAN TEXTILES(ブータンテキスタイルズ)』と名付けられた。ブータンの伝統的な手織物を用いたコレクションは、ブータンの各地に点在する手織物工房から、21ケ所を厳選して作られる。ウールやシルク、コットンなどの自然素材を主に使用しながら、宗教や伝承に根差したパターン(文様)、身近な原料を使った草木染など、ブータンの地域性も豊かに感じることのできるコレクションとなっている。
 私たちは、暁子さんの協力のもと、『BHUTAN TEXTILES』に携わるブータンの方々に、オンラインで話を伺う機会を得た。その話を参考にしつつ『BHUTAN TEXTILES』の商品について、これから詳しく解説していきたい。


Photo by Instagram @bhutan_textiles
 
■手織りについて

 ブータンは織ることによって表現する「織りの国」である。ブータンの手織物は、機械を使わず、人の手によってのみ織られる。凝ったものであれば、完成までに一年以上を要することもある、非常に手間のかかる作業だ。現在では、そのほとんどを女性が担っている。


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 ブータンで手織物を織るために用いられる織機は、大きく分けて二種類ある。ひとつは「Pang Tha(パンタ)」と呼ばれる木製の地機である。足の短い形状の織機で、床に座り腰のベルトで、縦糸を張りながら織っていく原始的な織機である。もうひとつは「Thrue Tha(テュタ)」というチベットから伝来したと言われる木製の高機である。こちらは、椅子に腰かけて織ることができる、地機の改良機だが、やはり自動で動くことはなく、すべて手作業によっている。


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 一見まるで刺繍のように見える様々な文様も、実は刺繍ではなく織で表現されている。縦糸を一本一本手作業ですくい、そこに糸を織り込む「縫い取り技法」という、気の遠くなるような技法によって、文様は表現されている。これほどまでに卓越した技術を持ちながら、今までブータンの手織物は、ほとんど国外へ輸出されたことがなかった。純粋にその技術は、身近な者のために培われ、今もなお進歩し続けている。


Photo by Instagram @bhutan_textiles

 ブータンには、手織りを指す「Hingham」という言葉がある。それは手作業や技術的なことを意味するだけでなく「心で織る」という意味なのだそうだ。手織物は、ブータンの人々にとって、アイデンティティの象徴のようなものなのだろう。

■パターン(文様)について

 色とりどりの糸で、様々なかたちを表現した文様は、ブータンの手織物の大きな特徴のひとつである。その文様は、それぞれにブータンの文化に根差した由来や意味を持っている。
 例えば、動物や草花などの自然をモチーフにしたもの。小さな三角形が集まって作られるこの文様は、バタフライ(蝶)を表現している。バタフライは比較的よく見られる文様で、いろいろな素材に使用され、様々な形や大きさが存在する。


「バタフライとプロテクションの織柄」
FABRIC / TSOTSO ¥18,500+TAX

 その他には、生活や身の回りの道具に由来を持つものがある。前述のバタフライの文様が配されたテキスタイルに、同時に描かれるひし形の文様。これはブータンの武器に由来を持つ、プロテクション(お守り)を意味する文様である。この文様には「持ち主を災難から守りたい」という想いが込められている。
 

「GACHU(ガチュー)と呼ばれる文様」
CUSHION COVER / GACHU ¥5,100+TAX

 小ぶりなクッションカバーに描かれる「GACHU(ガチュー)」と呼ばれる刺繍の文様も、同じくプロテクションを意味している。元々は、お守りとして身に付ける首飾りが由来の文様で、コレクションでは、それにアレンジを加えて用いられている。
 複数の線が交差する、複雑なかたちを刺繍した文様は、特別な位の人が持つ、ビターナッツを入れる金属製の箱に描かれている柄が由来である。ビターナッツとは、タバコが禁止されているブータンにおいて、タバコと同じような用途で嗜まれる、噛みタバコのような嗜好品のことだ。


「ビターナッツの入れ物の柄がモチーフ」
CUSHION COVER / RINZIN ¥3,700+TAX

 赤褐色が基調のミックス生地に、カラフルな糸で文様が彩られているテキスタイルは、ブータンの東、かなり標高の高い秘境のような場所で作られる特別なものだ。他のものを織った際に出る残糸を集め、つなぎ合わせて織るため、色が混ざり合い、独特のミックス生地に仕上がる。カラフルな文様は、花をモチーフにしており、その文様が入ったものを女性が、無地のものを男性が身に付けることになっている。


「ミックス生地とカラフルな織柄が美しい」
FABRIC / DECHEN ¥30,000+TAX

 これまでの抽象的な文様とは異なり、はっきりと寺院のような建物が描かれたものもある。これはタクツァン僧院(別名タイガーネスト)という、標高約3120mの垂直に切り立った岸壁に、実際に存在する寺院であり、チベット仏教信仰の聖地として知られている。ここは、ブータンの人々も一度は必ず訪れる、ブータンを代表する名所のひとつで、そのタクツァン僧院の全体像が、丁寧な刺繍によって描かれている。


「細かな刺繍でタイガーネストを描く」
CUSHION COVER / DEKI ¥6,500+TAX


Photo by Instagram @bhutan_textiles

 仕事をするときや寺院に参拝するとき、ブータンの人々は必ず民族衣装を着用する。女性が着る民族衣装で、基本になるものを「KIRA(キラ)」と呼ぶ。厚手の一枚布を複雑に体に巻く、ワンピースのような衣服で、着た姿は日本の着物によく似ている。コレクションにも「KIRA」という同じ名でラインナップされているが、これには文様は無く、チェックやストライプなどの柄のみで構成されるシンプルなテキスタイルだ。


「厚手の生地はテーブルクロスなどに適している」
FABRIC / KIRA ¥5,300+TAX


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■染色について

 全国土の72%が森林に覆われるブータン。人々の生活は、この手付かずの豊かな自然と共にある。ブータン南部の平地地帯は温暖な気候だが、一方、北部ではヒマラヤの高く険しい峰々が続く。このような地理的条件の多様性のおかげで、ブータンは世界でも有数の、野生生物の楽園となっている。


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 この大自然の中で育まれたブータンの手織物の文化は、身の回りに生息する野生生物たちを、染色の原料とする技術を培った。ブータンの手織物の中で、草木染によって染められるものは、具体的には、アカネやヨモギ、藍などの植物、クルミなどのナッツ類、スティックラックという、ラックカイガラムシの分泌物、樹木の皮などを原料としている。これを、古来より伝わる自然な製法を用いて染料にし、糸を染め上げるのだ。
 前世代までは、染色の技法や染料の調合の割合などは、家同士で秘密にされ、その家独自の色というものを守っていたという。しかし、現在では、今後もこの文化を存続させていくために、秘密にされていた技術は共有されるようになった。


Photo by EU-Bhutan Trade Support OUTPUT3-Bhutan High Value Textile Component

 以上がブータンの手織物の主な特徴である。現在でも、民族衣装を着用する民族は多くあるが、未だ手織りの衣装を日常的に着用する民族は数少ない。着道楽として知られるブータンの人々は、古来より伝わる手織物の文化を大切に守り、今も民族衣装のお洒落を楽しんでいる。


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 ブータンは「世界一幸せな国」と呼ばれている。その所以はブータン独自の開発指標「GNH(国民総幸福度: Gloss National Happiness)」に基づくものだ。これは国民ひとり当たりの幸福度を最大化し、社会全体の幸福度を高めていくべきだ、という考え方から誕生したものである。昔からブータンでは、こういった価値観が当たり前にあり、それを近年になって改めてシステム化し、指標にしたそうだ。
 そこで、『BHUTAN TEXTILES』に携わるブータンの方々に「あなたは生まれながらにして幸福なのだと思いますか?それとも幸福になるべく努力をされているのでしょうか?」という素朴な疑問を投げかけてみた。その中の一人、ソナムさんは「ブータンは小さい国なので、国民全員が家族のようなものと感じていて、お互いに尊敬し合い、協力して生活しています。もちろん、いろいろと苦労はありますが、それも含めて、今あるもので幸せだと感じています」と答えてくれた。


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 ブータン王国。それは今まで私たちにとって、文化も生活環境も全く違う、遠い異郷の地であった。しかし、今回機会を頂き、言葉を交わしたブータンの方々は、日本に暮らす私たちと、それほど大きな違いがあるようには思えなかった。むしろ、私たちと、どことなく似た顔立ちをし、控えめな口調で語るブータンの方々に、勝手ながら強い親近感を感じた。もし、ブータンの人々と私たちとの間に、なにか違いがあるとするならば、それはやはり「幸せ」に対する考え方の違いなのかもしれない。『BHUTAN TEXTILES』のプロジェクトは、ブータンへの支援が目的であることに違いはない。しかし、逆に私たちも、ブータンの手織物の文化に触れることで、「幸せ」について再考するきっかけになることだろう。


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 インタビューは最後「ブータンの手織物は、自然と共生し、今後も永く続いていくことを理念に作られています。このブータンの伝統文化を、できるだけ多くの人々に知ってもらいたいと思っています」というブータンの方々の言葉で締めくくられた。
 ブータンの手織物は、非常に美しく、見るものを楽しませてくれる優れた商品だ。だがそれだけでなく、その奥にある、ブータンの方々の想いに触れることで、その物以上の価値を感じることができる。私たちは、ダイスアンドダイスが、そういう想いに触れるきっかけの場所になれればと願っている。

文=藤雄紀

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