KEYWORDキーワード検索

FILTER絞り込み検索

OVERCOATの大丸さんと「穴」についての哲学的な話。

OVERCOATの大丸さんと「穴」についての哲学的な話。

2021.10.18 / INTERVIEW


VIDEO CREATED BY Jack Webb & Peter Miles

福岡ご出身の大丸隆平さんが手がけるNYブランドOVERCOAT。前シーズン行った座談会含め、これまでさまざまな媒体などで数え切れないくらいインタビューさせていただいたので、「今回は何について聞こうかな……」とちょっと悩みながら向かったチャイナタウンのアトリエだったが、杞憂だった。2021年秋冬コレクションの話はもとより、大丸さんが10代から続けているらしいネタ帳の話、そして最近最大の関心事である「穴」の話まで。そして次第に話はだんだん深いところまで……。



市川暁子(以下A): 何かお聞きしそびれているお話しってありますかねえ(笑)

大丸隆平(以下O):ありますかね(笑)。

A:OVERCOATって、これまでみたことがないパターンやユニークな仕様が特徴のブランドかと思うのですが、今日は大丸さんがどのように新しいデザインを生み出されているか、というプロセスについて教えていただけたらな、と思ったんです。

まずはスケッチする人、生地を色々触りながら考える人、などデザイナーさんによって違うと思うのですが、大丸さんはどのようにアイディア出しをされてるんでしょうか?

O:ネタ帳はあります。一応10代の頃からずっと小さなメモ帳にいろんなことを書き溜めてたんです。服のデザインに限らず、こういうことをしたら面白いんじゃないかなあ、っていうような思いつきまで。最近はiphoneのメモ機能を使ってますけど。でも、結局メモしても、あとでほとんど見直さないんですよね。

A:メモすることで記憶に残るのかな。

O:たぶんメモを振り返るときって、逆にクリエーションモードになっていない時かもしれないですね。自分、心配性なので(笑)、本当に困った時に備えて常にネタはストックしている。でもメモしても最終的に自分の頭に残っているものだけが形になっていくような気がします。忘れちゃったことは、たぶんそんなに大事なことじゃない。

A:2021年秋冬のテーマは「ソフト」でしたが、どういう過程でコレクションを組み立てていったのですか?

O:今季はソフトなテーラリングでものづくりをしよう、というイメージを持ちながら進めていきました。パンデミックのこういう時代ですから、柔らかく、ふわふわした手触り感のある服が求められているんじゃないかな、と思ったんです。

A:形に関してはどのように?

O:いい生地は見た瞬間にざっくりデザインが浮かんでくる。それがパッと思い浮かばない生地は使う必要がないのかもしれないですね。下手に歳をとってしまったので(笑)、情報を持ちすぎているのかもしれないんですが。

先に面白いと思う形を作って、どういう生地を当て込んでいったらいいか、と考えていく場合もあります。でもその時も、大体生地は思い浮かべながら作っていますね。この形だったら絶対ギャバジンがいいなとか、これはサージだな、とか。




新しいデザインは忘却と勘違いの彼方に

A:新しい生地は常に探してらっしゃるんですか?

O:そうですね。でも最近はあまり布の流れに逆らわないような作り方をしようかな、って思っています。

A:おお、丸くなったってことですか(笑)? 昔はもっと尖っていたと?(笑)

O:いえいえいえいえ(笑)。まあ、理屈から作っていくこともあるけど。例えば、バイアスにした布を二つ折りにして、どこかに掛けてみた時に自然に出るドレープをそのまま形にしていく、みたいな手法です。綺麗な布の流れを抽出していくような方法が最近は面白いな、と思って。

平面製図の場合、例えばジャケットだったら胸幅と背幅の比率はすでに決まっていて、その数字に則って形を作っていくんです。僕ももう歳とってきて、そんな知識だけはたくさんあって(笑)。でも逆にその知識が邪魔にもなってくる。知識に縛られ過ぎて、まさに杓子定規なつまらないデザインになってしまうんです。だから、30代も後半くらいになったら、一回はまっさらになった方がいい。忘れた方がいいんですよ。

何かをパッと渡されて、これで何か作ってください、と言われた時にどう面白くできるか。まっさらになろうとしていたとしても、頭の中はゼロにはなってなくて、本当に自分の中に残っていたものだけが出てくると思うんですよ。だから逆に忘れる努力をしなきゃいけない。

A:クリエーションの違う段階に入ってるんですね。

O:そうですね、もう自分がメモしたことも忘れた方がいいくらい。最近はやっぱり情報量が多過ぎて。

A:確かに。今、デザインにしても生活全般にしても、いろんな人がやっていることがネットやソーシャルメディアなどで常にシェアされ、公開されている。昔はお店とかに実際足を運ばないとみられなかったようなものも多くて、もっと情報ソースが限定されていたと思うんですが。最近では自分でシャットダウンでもしない限り、どんどん情報が入り続けてくるばかり。

O:例えばですが、パリの街角で素敵なドレスを着ている人を見かけたとして、その記憶って自分のフィルターがかかっているんですよね。だから、その記憶を元にデザインを起こしたとき、勘違いが起こる可能性がある。でも、ファッションデザインって、もともと勘違いの連続だと思うんです。インスピレーションって、記録する方法もないから覚えているしかない。その勝手な勘違いこそが、自分の色やデザインとして出てくるんじゃないかな、って思うんです。

自分はドレスの色を赤として記憶していたとしても、実際はピンクだったかもしれない。でも、そのドレスの写真をスマホで撮っておいて、あとでディティールを見直して、とかやっていくと、結局自分がどこにインスパイアされたのか、っていうことがだんだん薄れていってしまう。

A:その瞬間に受けた印象と、写真に撮って後から見た時の印象って違うかもしれないですしね。自分が身を置いている環境や状況によっても。今や、美術館でもレストランでも、みんな写真を撮り続けていますよね。本当はじっくり見て感じて味わって、記憶として残していったらいいのに、写真を撮っておかないと落ち着かない、みたいな状況にもなっている。

O:昔は自然にそんな勘違いが起きたけれど、今は逆に難しくなっているかもしれないですね。アートでも食でもいいんですが、自分はいつも何かを前にして思考する、という訓練は常に続けています。




僕らは「穴」がないと生きていけない

O:最近では穴に興味があるんですよ。穴の理論。

A:穴! ですか。

O:はい。穴って、穴だけを見せてくれって言われてもできないじゃないですか。穴って、外側の対象物がないと存在しない、実態のないものなんですよ。でも穴って世の中でめちゃめちゃ活躍している、僕たち穴がなかったら生きていけないくらいに。

OVERCOATでいうと、デザインの際ゆとりを大事にしているんですが、ボディ(ヌード寸)と布との間の空間って、穴みたいですよね。教科書通りにいくとヌード寸に対して、タイトなジャケットだったらゆとりは8㎝、もっとピタピタに着たかったら6㎝、普通だったら12㎝、といった目安があるんですが、うちのジャケットって25~6㎝あったりするんですよ。だからこそ中にいっぱい着られたりとか、ゆとりが綺麗なドレープとして見えてきたりとか、僕らは“穴”みたいなものをデザインしてる、とも言えるんです。

ゆとりが綺麗に入ったデザインって、布の流れが美しく見えてくる。最近は僕、「穴」というかゆとりをデザインしたいなあ、って思っているんですよね。ネガティブスペースというか。みんな物自体をデザインしがちだけど、物と物の間をデザインする、っていうのも大事だなあ、と。

A:遊びとも、いえますよね。ハンドルとかも遊びがないと上手く機能しないって言いますし。

O:物と物との間、そして関係性とかも含めて。

A:なんだか話が哲学的になってきましたね、深いですね(笑)。

O:深いです(笑)。穴とかゆとり、そして空間って、もともと日本人が大切にしていることなんじゃないかな、とも思うんです。例えば、コップがあったとして、欧米だとコップそのものにフォーカスしたデザインアプローチが多いような気がするのですが、日本だとコップのある空間も含め使う人が心地よいかどうか、まで考える。それはきっと日本人が農耕民族で、ずっと自然を大切にしてきたからじゃないか、とも思うんです。

出来上がったものを取得していく狩猟民族ではなく、日本人は自然と向き合い共存しながら何かを育ててきた。だから自然との関係性を大切にせざるを得なかったんじゃないか? 自然災害も多い国ですしね。本当ならコロナとか疫病との付き合い方も日本人の方が得意なんじゃないか、とも思うんですが……。

この間、静岡でドライブした時なんですが、道を何度曲がっても、富士山がずっと車窓から綺麗に見えていたんです。きっと道を作るときに富士山が美しく見えるように配置して作っているんだろうなあ、って思いました。道と富士山の関係性を考えたデザイン、っていいですよね。。目的地に到着するまで、余計な時間はかかるかもしれないけど、でもそのほうがきっと旅は楽しいですから。

A:単にA地点からB地点へ効率的に行く、っていうだけのことじゃないわけですね。

O:プロセスを楽しめるデザイン。穴とか間、について今、とても興味があるんです。



インタビュー第2弾・後篇「パンダTを着た“奇才”ランナー 大丸さんはこれからも走り続ける。」
インタビュー第1弾「Dice&Dice、OVERCOATと出逢う。」はこちらから。
「OVERCOAT」商品一覧はこちらから。


大丸隆平
福岡県出身。文化服装学院卒業後、日本を代表するメゾンブランドにパタンナーとして勤務。2006年、某ニューヨークブランドにスカウトされ渡米。2008年、ニューヨークのマンハッタンにデザイン企画会社「oomaru seisakusho 2」を設立。名前の由来は実家のやっていた家具工場で、モノ創りをベースにファッションにおける新しいステータスをクリエートするという理念のもと立ち上げた。スタッフは全員日本人で構成し、MADE IN JAPANの創造力、品質を世界に発信し続けている。現在も数多くのクリエーターに企画デザイン、パターン製作、サンプル縫製サービスを提供する。2015年秋冬シーズンより、ブランド「OVERCOAT」をスタート。2016年、「大丸製作所3」を東京・神宮前に設立する。
(受賞歴等)
2014年 第2回 CFDA FASHION MANUFACTURING INITIATIVE
2015年 第33回 毎日ファッション大賞 鯨岡阿美子賞を連続で受賞

OVERCOAT
OVERCOATは「Wearing New York(ニューヨークを着る)」をブランドの原点とし、デザイナーの大丸隆平がスタートしたブランド。設立当初は、THE GREATEST OVERCOATS PROJECT by oomaru seisakusho 2という名で、コートのみのブランドとしてユニセックスによる展開をしていた。数シーズンを経て、現在では、ジャケット、パンツ、シャツ、スカーフ等トータルルックを製作するようになっている。ニューヨークの「oomaru seisakusho 2」ではアポイント制でカスタムオーダーにも対応している。パターンの特徴は、ショルダーラインに工夫を凝らしているところ。プレタポルテでありながら、まるでオートクチュールのように、着る人にフィットする美しいシルエットを築く。サイズ・ジェンダー・エイジを問わないボーダレスなデザインを提案している。素材は、シーズンによって世界最高品質を誇るメーカーと共同開発で製作。古い制服や軍服として使われていたものを復刻したり、ユニークな後加工を施したりすることで、つねにアップデートされたものを提案している。

市川暁子
NYを拠点にファッション、デザイン、アート分野のブランディングおよびコンサルティング業務を手掛ける。ニューヨークコレクションのリビューは20年以上続けており、新聞雑誌媒体の編集や執筆活動も。

SHARE

一覧に戻る