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福岡の“俺ら系”クリエーターズ 10 年以上ぶりの再会、からのコラボレーション<後編>

福岡の“俺ら系”クリエーターズ 10 年以上ぶりの再会、からのコラボレーション<後編>

2022.03.11 / INTERVIEW

OVERCOAT大丸隆平さんの小学校時代からの幼馴染、写真家の菅井健也さん。FW2022のルックブック撮影のためNY入りした菅井さんを囲んでの対談、後編は菅井さんの写真論のコアとOVERCOATの共通点などについて。



市川暁子(以下A):大丸さんの子供のころの夢は何だったんですか? デザイナー?

大丸隆平(以下O):科学者。

A:か、科学者!

菅井健也(以下S):ルーツは一緒よね。

O:実験したかったのは憶えています。その前はヘビ使い、小学校1年くらいの頃かな。

A:へ、ヘビ使い(爆)!! 見たんですか?(笑)

O:ヘビ使いから科学者、そしてボクサー(笑)。ボクサーへの夢は1ヶ月も経たず終わったけど。

S:オオマ(大丸さん)は昔からファンキーでしたね。金髪だったし、いつも派手な格好してた。俺は理解できんけど、いつも先にいるな、みたいな。情報とか、カルチャー的なことも。俺ら、大丸製作所1(大丸さんの実家の木工製作所)でバイトしてたんですけど、その時も彼は古着のつなぎとかを着こなしてましたね。

O:久留米に「西海岸」っていう体育館くらい大きな古着の店があるんですよ。シャネルからモンペまで、ものすごい量の服があって、100円くらいで売ってる。よく年上のいとこと一緒に行ってました。スガちゃん(菅井さん)も行ったよね。

A:昔からユニークだったんですね。

S:でも1軍じゃない、俺らはずっと2軍でしたね。1軍はほんとのヤンキーだから。俺らそこまでやんちゃではなくて、根はは真面目というか。俺はオオマにいつも色々説明してもらっていました。

O:さっきも言ったけど、俺の方が論理的なんです、スガちゃんの方が感覚的。今回ロケハンした時も俺はチャイナタウンばっかりだと赤っぽいのが多くなるから、違うエリアにも行ったほうがいいかな、とか考えるんですけど、スガちゃんは「だったらこの角度から撮ればかっこいいんじゃない?」みたいなアイディアを出してくれる。

A:大丸さんはNYの街のことを知りすぎている、というのもあるかも。

S:それはあるかも。そもそも自分の写真のコンセプトとして場所の情報を入れたくないんです。こんな場所にこんな人がいます、といったシチュエーションを捉えるわけじゃないんです。人も物も一緒で、形と色の差しかない。

A:物撮りに近いですか? 写っているのは人間だけど、ポートレートというよりはマテリアルの一つとして配置しているみたいな感じ?

S:そうですね。意図的に無意識的にしている、みたいな。ストリートスナップでそこにちょうど足りなかったものを人で埋める、みたいな。

菅井さんの写真とOVERCOATの共通点

A:菅井さんの写真ってどこか必ずユーモアがありますよね。例えば犬を写していても、顔は全然写ってない。そのポイントの掴み方ってもしかして笑いにも通じるところがありますか?

S:狙いは犬とは思ってない、ってところなんです。

A:ふかふかしている毛皮的なマテリアル、っていうか。そういう視点がとてもユニーク。

S:昔は世田谷区環七環八246をめちゃくちゃ歩いて、その辺りにいる人を撮ったり、前を歩いている人に「コケろ! コケろ!」と念じて、コケる瞬間を撮ったり。でも、長年やっていると、ストリートスナップのルーツである、そこにあるものに反応するということに限界を感じてきたんですよ。

A:なるほど。被写体との出会いは自分ではコントロールできないですしね。

S:ストリートでこんなことに気づきました、というのは表現として限界がある。結果的に自分の人間性が写真の本質に残るようなものを作りたいな、と思い始めたんです。

A:ボッテガヴェネタのプロジェクトはどのように始まったんですか?

S:2年くらい前に突然Eメールが来て。ボッテガは『Issued by Bottega』というwebマガジンを作っていて、そこに掲載する作品を作ってくれないか? という依頼が来たんです。なぜ自分が選ばれたか全くわからないのですが、多分東京とかストリート、というキーワードで繋がったのかも。『VICE』にもその頃、写真が載ったりはしていました。Myrza Devaというアーティストが作ったオブジェの画像をプリントアウトして、ポスター的に街に貼り、それを僕が撮る、というアーティスト同士のコラボレーション企画でした。

ちょうどファッション写真に興味を持ち始めていたので、それがいいきっかけとなりましたね。自分の作品の中にヘアメイクの人とか、他人の発想が入っていくと、自分の想像の範囲を超えるものができる可能性がある。ストリートスナッパー出身というのをみんな理解して頼んでくれているから、割と自由にやらせてもらえますしね。



A:では今回のOVERCOATのルックブックの撮影も絶妙なタイミングでしたね。

S:俺の作品は癖があるからそれでもよければ、って感じだったんですが。実現してよかったです。

O:OVERCOATって良質の生地を使って作っているから、スタイリングしていくと美しくまとまりすぎちゃうことがある。ファッションって外すテクニックがとても重要なので、どうにかして切り崩していかないと。自分はアッパー層のセレブリティたちのためだけの服を作りたいわけじゃないんです。もっとカルチャーとか一般にも落とし込んでいきたい。

ボロボロの古着の上にOVERCOATってかっこいいかもしれないし、ある意味ダサさとかっこよさの際みたいなところを表現していかないとただ綺麗なだけのものになってしまうから。いつもそういう感覚を忘れないようにしたいな、と思っています。スガちゃんの写真にはそういうエッセンスが感じ取れる。久々に会って、写真を見せてもらって別の次元に行ったな、と感じました。単に友達だから撮影お願いした、ってわけじゃないんです。

S:嬉しいですね。俺は今回一緒にできること、ちょっと感動してますよ。

A:二人ともそれぞれにキャリアを積み重ねてきて、このタイミングで再会できたことは本当にラッキーでしたね。ちなみに、どんな感じの撮影になりそうなんですか?

O:もともとの価値観が近いから、楽ではあります。今シーズンのテーマは“Winter Air”で抽象的な感じなので、そんな雰囲気で撮れたらいいかな? とは思っています。昔は化学繊維とかも開発されてなかったから、分厚いウールのジャケットを着てスキーとかしていたんですが、そんなウィンタースポーツのテーストがデザインされています。革ジャンの上にジャケットとか、レイヤリングもポイントで。

S:ロケハンしながら探りあってく感じですかね。NY来て、まだ地下鉄さえ乗ってないし、写真モードに入っているから、街並みを“柄”としてしか見ていない。

A:NYに来ての印象とかはないんですか?

S:アメリカ人おっきいな、くらいですかね。観光客モードとは全然違うかもしれないですね。

A:常にそんな感じですか?

S:はい、写真家としてはいつも意識的に生きていますね。

A:瞬間を意識するって、そういうヨガの手法もありましたよね、確か。写真って動画じゃなくて静止しているもので、画角の中にどう収めて絵にしていくか、ってことだと思うんです。日々の瞬間をとらえながら、自分の意図として構成していくプロセスは、もしかしたらそんなメディテーション的なことなのかもしれないですね。


-END-


大丸隆平
福岡県出身。文化服装学院卒業後、日本を代表するメゾンブランドにパタンナーとして勤務。2006年、某ニューヨークブランドにスカウトされ渡米。2008年、ニューヨークのマンハッタンにデザイン企画会社「oomaru seisakusho 2」を設立。名前の由来は実家のやっていた家具工場で、モノ創りをベースにファッションにおける新しいステータスをクリエートするという理念のもと立ち上げた。スタッフは全員日本人で構成し、MADE IN JAPANの創造力、品質を世界に発信し続けている。現在も数多くのクリエーターに企画デザイン、パターン製作、サンプル縫製サービスを提供する。2015年秋冬シーズンより、ブランド「OVERCOAT」をスタート。2016年、「大丸製作所3」を東京・神宮前に設立する。
(受賞歴等)
2014年 第2回 CFDA FASHION MANUFACTURING INITIATIVE
2015年 第33回 毎日ファッション大賞 鯨岡阿美子賞を連続で受賞

菅井健也
京都府出身。5歳の時一家で福岡へ移住。高校卒業後ロンドンで映像を学ぶ。2008年第31回公募「写真新世紀」で優秀賞を受賞。作品制作のほか、ボッテガヴェネタのウェブマガジン『Issued by Bottega 』、『VICE』、『Harper’s BAZAAR』日本版、『Numero TOKYO』などで活躍。

市川暁子
NYを拠点にファッション、デザイン、アート分野のブランディングおよびコンサルティング業務を手掛ける。ニューヨークコレクションのリビューは20年以上続けており、新聞雑誌媒体の編集や執筆活動も。


インタビュー第3弾・前篇「福岡の“俺ら系”クリエーターズ 10年以上ぶりの再会、からのコラボレーション」

インタビュー第2弾・前篇「OVERCOATの大丸さんと「穴」についての哲学的な話。」

インタビュー第2弾・後篇「パンダTを着た“奇才”ランナー 大丸さんはこれからも走り続ける。」

インタビュー第1弾「Dice&Dice、OVERCOATと出逢う。」

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