KEYWORDキーワード検索

FILTER絞り込み検索

大籠千春(宝島染工)

Aloha Blossom

INTERVIEW | 大籠千春(宝島染工)

手染めでの防染技法にこだわり続ける宝島染工。特別に依頼した「藍染め」と「墨染め」のアロハシャツを染め上げる染色の工程や、代表 大籠千春さんの想いを取材しました。

  1. 今回依頼させていただいたアロハシャツの染めの工程について教えてください。

    今回は墨染めと藍染の2パターンになります。墨染めは墨汁を使って染めています。煤(すす)が浮遊してモヤりと定着するので、化学染料で染めるのと違い、すっきりとしない斑(むら)感が特徴の、黄色みがないグレーが出ます。

    墨染めはそんなに複雑な工程ではなくて、お客様に説明するとしたら、染めて、乾燥させて、定着させて、洗って、それだけなんです。複雑な工程というよりは、手間をかけているという感じで、わざと絞り方を甘くしたり、途中で熱を加えたり、ふわっと乾燥させる時間をつくったり、工程の中にいろいろと工夫があるという感じですね。

    宝島染工 沖縄展2023

    藍染の工程としては「板締め絞り」といって、仕上がった製品を屏風畳みにして板の間に挟み込んで染めます。夏商材ですので、大きめに畳んで柄が大きく出るようにして、製品加工の面白さを活かしつつ、途中で板を差し替えて畳み変えを行うことで、ちょっとトリッキーな柄に見えるようにしています。

    まずグレーの部分をミロバランという植物で草木染めをして、板をずらし藍染めを重ねます。よりネイビーに見えるところと、グレーが残るところと、白抜きが残るところというので、うちで言う「葉蔭」という柄を使ったパターンを、もう一度載せ替えたという感じです。

    宝島染工 沖縄展2023
    宝島染工 沖縄展2023
  2. 柄や染めの種類によって染め方は変わりますか?

    板締めの場合は、藍自体のコンディションをすごく上げて、過還元という興奮させた状態までもっていって染めることが多いです。板締めは板でプレスした状態で染めるので、板が乗っているところと乗っていないところの際をはっきりとさせることで板締めらしい柄になります。弱い藍だと仕上がりが柔らかくなりすぎてしまうので、できるだけ興奮状態にもっていき染めています。

    逆に草木染めはあまり関係ありません。草木はデータ通りに発色するので確認するだけでできるんですけど、藍の場合は、元気が落ちたり、ちょっと戻ったり、いろいろしながらだんだん落ちていくような、コンディションが動くタイプの染料なので、そこは調整しながらやっていくという感じですね。特に柄の場合は畳んで挟むのでやり直しがきかないんですよ。ミスをした工程が出ても一度解くと柄自体がずれるので修正できないんです。リスクがありそうだったら事前判断します。

    宝島染工 沖縄展2023
    宝島染工 沖縄展2023
  3. 藍のコンディションが落ちるとどうなるんですか?

    コンディションが落ちるっていうのは、単純に言うと色の付きが弱くなります。水色、青、紺、濃紺、というように、回数を重ねると濃くなっていくんですけど、同じ時間、同じ回数染めても濃紺にならず、紺色認識ぐらいにしかいってないという感じになります。こうなると商品として色がブレた調子に見えてしまう。「紺色にグレー」の柄と「濃紺にグレーの柄」みたいな見え面になるっていうのは、うちの基準としてはダメです。

  4. 逆に藍が興奮状態になるというのはどういうことですか?

    単純に数値で測れる器具もあるので、誰でも判断できる基準なんですけど、興奮状態だと粘度が高くなるので、指を入れた時にとろみを感じます。藍染めの染料はアルカリ性なので、すごく元気がいいと肌に食いついてくる感じです。逆に元気がなくなってくると、シャバシャバになってきて、肌にも食いつかなくなるので、そうなる前に一旦ストップします。

    藍染めはコンディションが動くので、それをどうやってチェックするかというのを、スタッフみんなで共有して進めます。「色は同じように見えるけど、なんかちょっと違う」みたいなところを、みんなで共有して、早めに判断するようにしています。

    レーヨンとか綿麻とかだったらアルカリ性の水溶液に長い間いても悪くなることはないので、染める回数を重ねることで色の濃度を合わせることもできるんですけど、シルクやウールが少しでも入っていると、繊維がもろくなったりするリスクがあるので、一旦止めて中和させるっていう判断をします。そうしないとやり直しできないので、そこを細かくチェックしていってクオリティーを保つようにするという感じですね。

    宝島染工 沖縄展2023
    宝島染工 沖縄展2023
  5. 宝島染工と他の染工所との違いはどういうところですか?

    私も他にうちみたいな工場を知らないんですよね。例えば、絞りを専門でやられている工場はあって、絞りの技術をすごく確立してらっしゃいます。逆にうちは一つの染めをすごく深堀りしているわけではなくて、絞りも、板締めも、ロウも、型染めもみたいな、防染技法のみをいろいろやりますという感じです。今回のアロハブロッサムさんとの企画みたいに、デザイナーさんの意図するニュアンスを汲んで、防染技法の中でなにが一番相性がいいかを考えて「一回作ってみましょうか」みたいな感じでに提案させていただきます。

    古い技法を守る事を優先していない場合が多いというか、マーケットのバランスももちろんあるので、技法を重んじてやった方が的確な時と、仕上がりとか価格のバランスを重んじてやった方が的確な時とあるので、そういった少し勘が利く工場という感じでオーダー頂いているところもあるかなと思います。そういう意味でデザイン的な要素も取り入れつつ、手染めで中量生産という形に持っていける工場として、他にはあまりないのかなという気がします。

    今回のアロハシャツで採用していただいた柄も、板締めの古典的な柄ではあるんですけど、それをちょっと変則にしているんですよね。ちゃんとアロハブロッサムさんらしい形に持っていって染めるというのがうちの仕事だと思います。

    宝島染工 沖縄展2023
    宝島染工 沖縄展2023
  6. 染めに使われる道具について教えてください。

    アロハブロッサムさんは基本的にアロハシャツという定型の形でやられていると思うんですけど、普通のアパレルメーカーさんは毎回違う型じゃないですか。ブランドのイメージは同じなんだけど、内容が変わっていくっていう感じなので、毎回違うものにトライする様な感覚なんですよね。

    同じ仕事がないから、決まった形の道具が使えない、というか結局はまらないんです。なので依頼に対して的確に応えるために、道具を自分たちで作ることが多いです。できればコストがあまりかからずに、繰り返し使えるもので、ある程度流通していてリピートで買えるもの、手配できるものって感じで探すと、結局身近なホームセンターで探すことになるんです。特殊な道具を使うっていう感じではなくて、どちらかといえば知恵と手間をかける方を選ぶという感じですね。

    例えば、細い竹が千本ぐらいまとまったような、中華鍋とかを洗う時に使うササラってあるじゃないですか。あれをばんばん叩いて、ロウを振って作る柄とかあるんですよ。技法として成立している古典的な方法なんですけど、この技法はロウを使うことで、ロウをつける時間と、ロウを取る工程が出てくるんですよ。ロウを取る工程って溶剤に産廃の化学物質を使わないとできなくて、それを廃棄するコストまでお客さんに持っていただかないといけない。こちらでもそれを管理しないといけない。っていうところでかなり高額になってきてしまうんですよ。

    でも、結局お客さんが欲しいのはああいうニュアンスだったりするので、その技法を守った方がいいのか、それに近いニュアンスが欲しいのか、どちらか選べる選択肢をうちは提案する感じです。「この柄だったら、色を抜くんじゃなくて、逆に色を付けることで近い柄ができますけどどうですか?」といった感じで、仕上がりやコストも含めて一緒に考えていく感じですね。

    宝島染工 沖縄展2023
    宝島染工 沖縄展2023
  7. 季節によって変わることはありますか?

    夏はどうしても濡れたままで放置しておくと、雑菌が繁殖しやすいので繊維が痛みやすくなったり、カビが発生してシミができてしまったりするので、取り扱い上そういう懸念が出てきます。梅雨は特にカビが生えやすいので、どうしても藍が走れなくなっちゃって、思い通りに伸びていかなかったりみたいなことは起きやすいですね。

    あと梅雨や寒い時期は、乾燥の工程を踏む場合は乾燥時間が長くなりすぎるので、仕上がり的にも納期的にも想定とずれることが起こりやすいので、量を作るメーカーさんの場合は、その原因を外すしかありません。柄自体を変えるか、納期を長くしてもらえるかを相談していきます。

  8. 染色は水が大切だと聞きます。宝島染工で使う水について教えてください。

    まず水道水だと塩素が入っているので染色には適さないというのがあります。また工場は水を大量に使うので、工場が集まったエリアには、工場用水というそんなに精製していない飲料にしない水が引かれていて、それを使うのが一般的だと思います。でもこの町に染工所はうちしかないですし、繊維の生産体系もほとんど無いので、うちは工場用水ではなく、このあたりの生活で使っている井戸水をそのまま使っています。井戸水なので鉄分の含有量が多く、渋く濁った色が出やすいです。

    この土地原産の原材料だったり、この土地だからできることということには、今のところまだ着目できていないんですけど、水はこの土地の水を使うというのが一番すっきりくるんじゃないかなと思うので、それでデータを揃えて生産しています。本当に、この水と人がうちの財産という感じですね。

    宝島染工 沖縄展2023
  9. 人が財産というのは?

    うちみたいに手で全部染める工場というのはやっぱり少ないので、この形態に慣れている人があまりいません。例えば、手作業で3000枚染めるとなったとき「嫌だな」じゃなくて、「頑張んなきゃですね!」みたいなノリの人たちしかうちにはいなくて、「3000枚おわったら焼き肉にするか!」みたいな、そういう雰囲気でやってくれているので、本当になんかいいところだなっていう感じです。

  10. 大籠さんが宝島染工を始めたきっかけを教えてください。

    独立したかったわけでも、社長になりたかったというわけでもなんでもなくて、むしろ誰かに雇ってもらいたかったくらいなんですけど、雇ってくれるところがなくて。こういう藍染をある程度量産でやっているところってすごく少ないんですよ。「求人してないですか」って尋ねて行ったこともあるんですけど、家族単位で小さくされているところも多いので、そもそも求人できるような体制でもなくて。あとはやっぱり女なので「結婚したらやめるんでしょ?」的な感じでなかなかスムーズにいかなくて。一応自分は経験者なので、「これやって」と言われればできるんですけど、働かせてくれるところが無いというのが正直なところでした。

    市場自体は、藍染を喜んでくれるお客様はいらっしゃるので「需要と供給が合ってないな」という事はちょっと感じていました。あと国産の藍だとどうしても生産量が落ちているのでどんどん高くするしか道がなくて「(国産の藍で染めた)着物みたいな値段の服ってどうなのかな?」という気持ちと、生産するんだったら「(勿論高いんだけど)インド藍の方がいいのにな」とも感じていました。

    「なんでそういう工場ってないんだろう」と思って、いろんな人にお話ししたら、「仕事をあげるから起業すればいいじゃん」みたいな感じで言ってくれる方がいて、「絶対ですよ?それで仕事くれなかったらキレますよ?」みたいな(笑)。まあそういう流れでできた感じですね。

    宝島染工 沖縄展2023
    宝島染工 沖縄展2023
  11. 染色の仕事をされるきっかけは何だったんですか?

    一応、高校の時からグラフィックデザインとか美術系には進学していたので、グラフィックがいいなとは思っていたんですけど、私の年代だとグラフィックデザインというと、仕事は紙媒体が多かったので「紙かあ……」みたいな。デザイン事務所とかカタログとかCIとか、そういう仕事に自分が就いて、机に座って紙物をつくるっていうのが、自分はちょっと合わない気がして、なんとなく「人が使うものがいいんだよな」と思っていて。それで、世代的にDCブームの世代なので「だったらやっぱり糸だな」っていうので、高校を卒業してからテキスタイルの方に進学して、という感じですね。

    宝島染工 沖縄展2023
    宝島染工 沖縄展2023
  12. 仕事に取り掛かる前の気持ちづくり、毎日のルーティンなどはありますか?

    20代からこの仕事をしているんですけど、やっぱりとても女性が少ない職業で、仕事場には男の人がメインでいることが多いんですよ。私が就職した時期は就職氷河期だったというのもあって、雇用自体が少なくて、まず女の人で工場に希望を出すっていう人がほとんどいませんでした。そこに20代で「働きたいです」って言っても、「どのぐらい働くの?」みたいな感じで言われることがすごく多くて「ちゃんと働かないと、それ以下に見られちゃう」っていう意識が自分の中にすごくありました。なので力仕事は絶対断らないみたいな、なんか変に意地になっちゃってて、基本的にどんな仕事でもどうにかするみたいな気合はありました。

    20代30代の頃までは、重いものでも工夫して持つとか、なんか道具を使うとかすれば何とかこなせたんですけど、40代ぐらいから体調がすぐれないことも多くなってきて、その上少しづつ経営の方の仕事のボリュームも増えてきて、体よりも頭を動かす仕事が増えちゃって、意識して体を動かさないとバランスが保てなくなってきて、「ちょっと一回立て直さないとダメだな」というので、40代後半から朝ストレッチしたり、時間があるときは走ったり、太りすぎないように気を付けたりするようになりましたね。一回体を温めて、それから文字を入れるとかした方が、頭がすっきりするので。

    宝島染工 沖縄展2023

  13. 仕事の中で、気を付けていること、楽しいこと、苦労することを教えてください。

    気を付けていることは、みんながうまく回っているか、小さくその都度止まれているか、というところですかね。あとはみんなの笑い声や話し声がちゃんと聞こえるか。会社も生き物みたいな物だと思うので、ちゃんとみんなが活き活きと働けているかというのも気になりますね。あと人と会うことも好きなので、どういう風に誰と会った方がいいかとかは、少しづつ意識しながら動くようにしています。

    基本的に仕事が好きなので、苦になることはあまりないのですが、経理的な仕事と服のデザインに関しては、もっと適した人がいるといつも思っています。私みたいなのろのろ仕事ではなくて、的確に素早くやる人が絶対にいるはずなので、苦労というよりは、みんなに迷惑をかけているなという思いですね。

    今働いてくれている人たちはみんな仕事が苦じゃない人が多いから、空気が軽い工場になってていいなって思いますね。私はそれが楽しいことだなって思いますね。

「つくりつづけるために」大籠千春(宝島染工)